沖縄県知事選挙とヘイトスピーチ――ヘイトウォッチにご協力を


9月30日に投開票される沖縄県知事選挙では、辺野古新基地建設が大きな争点として浮上している。

投票日まであとわずかである沖縄県知事選挙で、残念ながら政治家によるヘイトスピーチ(差別煽動)が発生する可能性がある。それは選挙結果を大きく左右する可能性さえある。

政治家のヘイトスピーチが民主主義を破壊することを防ぐため、私たちはヘイトウォッチ(差別発言の記録と通報)を提案したい。

 

  • 2017年のうるま市長選挙の時のヘイト

沖縄県の選挙で政治家のヘイトスピーチが起きた深刻な前例がある。

去年2017年4月23日投開票されたうるま市長選挙において古屋圭司氏(衆議院議員[岐阜5区選出]自民党選対委員長)が4月16日にFacebookに投稿した内容が問題となった。

 

「何でも反対、全く財源の裏付けのない無責任な公約や、空虚なキャッチで市民への詐欺行為にも等しい沖縄特有のいつもの戦術。」https://www.facebook.com/furuyakeiji/posts/1015679981895764?__tn__=-R

 

「詐欺行為」を働くのと同じ戦術が「沖縄特有」と明記している。これは沖縄への差別である。人種差別撤廃条約第1条は「人種差別」を次のように定義しているが、それに抵触する可能性が極めて高い。

人種差別撤廃条約第1条 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。(外務省サイトより。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/conv_j.html#1

 

問題は「目的又は効果」という箇所である。つまり目的がなくとも、特定の民族/人種的出自に結び付いたグループとの平等を害する「効果」があれば、それは「人種差別」なのである。(以下、上記で定義された「人種差別」をレイシズムという言葉でも表現する)

 

  • その後の対応

しかし、問題は投稿の内容だけでなかった。古屋氏はその後、自らの発言を完全に正当化した。彼は「誹謗(ひぼう)中傷したわけではない。客観的事実を申し上げた」と国会内で記者団に説明し、発言を訂正することも、撤回することもせず、Facebookの投稿も削除しなかった。

「沖縄を植民地扱い」「県民を侮辱」自民選対委員長発言に反発 うるま市長選| 沖縄タイムス+プラス ニュース| 沖縄タイムス+プラス http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/93858

それだけはない。自民党の竹下亘国対委員長は19日、古屋氏によるFacebookの投稿について「そういう側面はあるのではないか」と東京都内で記者団に語り、投稿について擁護した。(http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/94011

相当深刻な問題であったはずなのに、地元紙と全国紙のごく一部のみが取り上げただけで問題は収束してしまった。

 

  • 何が問題か

この事件の何がどのように問題だと言えるのか。3点について指摘する。

 

①差別である

彼の発言が差別であることはすでに述べた。

だが、何が差別であるかまだピンとこない人もいるだろう。では同発言を他の国におけるエスニック・マイノリティへの発言として置き換えてみよう。

 

「何でも反対、全く財源の裏付けのない無責任な公約や、空虚なキャッチで市民への詐欺行為にも等しいユダヤ人特有のいつもの戦術。」

「何でも反対、全く財源の裏付けのない無責任な公約や、空虚なキャッチで市民への詐欺行為にも等しい黒人特有のいつもの戦術。」

 

少しは異様さがハッキリしたのではないか。これぐらい深刻な差別を古屋氏は行ったし、自民党は擁護した。

ここで次のような反論があるかもしれない。「ユダヤ」や「黒人」は宗教/民族/人種的属性だが、「沖縄」は一地域ではないか?と。地域特有の戦術を批判する自由はあるだろう?と。

だが国連人種差別撤廃員会は8月30日に対日審査の総括所見で沖縄の人々を「先住民族」として権利を保護するように勧告している。(詳細はこちらからhttp://imadr.net/cerd_concluding-observations_2018/

また同委員会は2010年勧告で沖縄県への米軍基地の集中が「現代的な形の人種差別」としていることにも注意してほしい。7割以上の在日米軍基地が沖縄に集中しているのは、日本の近現代史のなかで沖縄が差別され、戦後も安保体制の中で構造的に差別されていることの反映である。

つまり「沖縄」とは単なる地域だけでなく、日本近現代史のなかで差別されてきた「先住民族」をも意味する言葉でもあるといえる。そのような文脈がみえれば、古屋氏の発言が差別であることは容易にわかるだろう。

 

②政治家が差別している

古屋氏の投稿が“政治家”という立場で行われている。極めて深刻な問題である。なぜなら国や行政が行う差別や政治家はじめとした公人によるレイシズムは一般的に、市民によるレイシズムよりもはるかに強力に差別煽動効果を発揮するからである。(詳しくはARICの政治家レイシズムデータベースhttps://antiracism-info.com/database_home

 

③他の政治家が擁護している

政治家が差別したとき、他の政治家はこれを批判しなければならない。それは人種差別撤廃条約を結んだ日本での、公人としての義務である。

だが前述のとおり自民党はこれを完全に擁護した。野党の政治家でこれに抗議した人がどれだけいただろうか。

欧米で政治家が差別問題で批判されるとき、次の3つのポイントがある。

 

① 政治家が差別すること。

② たとえ直接差別していないとしても、政治家が差別や極右を支持しているとみなされること。

③ 直接差別していないとしても、政治家が差別や極右を批判しないこと、それらと闘わないとみなされること。

 

重要なのは②と③である。③についての批判が日本では圧倒的に足りない。だから古屋氏や杉田水脈氏のように、政治家の差別が容認されてしまうのである。

 

(「BBCのトランプ氏報道から学ぶ、差別に対する政治家の態度を批判する欧米的ポイント」https://www.huffingtonpost.jp/rysyrys/bbc-trump_a_23454288/と、共著『フェイクと憎悪』(大月書店)に書いたので参照してほしい。)

 

  • 県知事選挙期間中にも飛び出す可能性

日本では人種差別を禁止する法律が存在しない。政治家は批判も法的な罰則も受けずに「ノーリスク」で差別を選挙に利用できる。

古屋氏の投稿は偶発的な現象とみるよりも、現在の日本の社会状況では必然的に起こりうる現象だと考えられる。

9月30日の県知事選挙は両陣営とも激戦である。30日の投開票までに、政治家による酷いヘイトスピーチがでないとの保証はない。その際、差別発言を批判できるかどうかが日本の民主主義を左右すると言っても過言ではないだろう。

 

 

  • デマとFactCheck

今回の沖縄県知事選挙では基地問題をめぐる政治的な重要性から事実に基づかないデマが拡散される可能性が危惧されている。

選挙に向けて広がる「デマ」 モバプリの知っ得![70]- 琉球新報Style  https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-795800.html

実際に告示前にすら虚偽の選挙世論調査が出回っている。

虚構のダブルスコア 沖縄県知事選、出回る「偽」世論調査- 琉球新報https://ryukyushimpo.jp/news/entry-799272.html

NPO法人ファクトチェック・イニシアティブは「【FactCheck 2018沖縄知事選】プロジェクト」と銘打ってデマの通報を呼びかけている。 http://fij.info/archives/news_event/18082701

これは非常に重要な取り組みである。デマで選挙結果が左右されるのを防ぐには、デマを否定するメディアの力が必要不可欠だからだ。

このFactCheckに加え、ヘイトウォッチの必要性も強調したい。差別を扇動する公人をウォッチする必要性である。

 

  • 公人による差別煽動の具体例

 

公人による差別は、社会の差別を煽動してしまう。それは社会に破壊的な影響力を持つ。具体例を挙げよう。

2016年のアメリカ大統領選挙でトランプ大統領が当時行ったデマツイートがある。2016年の大統領選挙中にトランプ氏が実在しない「犯罪統計局」を出所とする「偽データ」において、白人のアメリカ国民が殺された際に、その加害者の81%が黒人だと主張した。しかし、FBIの2014年の統計によれば実際の数字は15%であり、逆に白人被害者の82%が白人によって殺されている。この後、トランプ氏は人種差別的であるとの批判を受け、最終的にツイートを削除した。

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35036172

しかし、これらのデマを背景にしてトランプ氏が大統領に就任してから黒人に対して多くのヘイトクライムが起きたことが記録されている。

http://www.afpbb.com/articles/-/3108001?cx_part=search

 

  • 三浦瑠麗「スリーパーセル」発言

これは米国の話だけではない。日本でも、東大教員である三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言の事例がある(「大阪地震で起きたヘイトデマに注意――ヘイトクライム、ジェノサイドを防ぐために」を参照してほしい。https://www.huffingtonpost.jp/rysyrys/osaka-20180622_a_23462927/)。事の発端は三浦氏の2月11日に放送されたテレビ番組「ワイドナショー」(フジテレビ系列)での発言である。三浦氏は番組内で「スリーパーセル」が日本国内で活動していると発言し、「今ちょっと大阪やばいって言われていて」と発言している。

三浦瑠麗氏、ワイドナショーでの発言に批判殺到 三浦氏は「うがった見方」と反論(アップデート)https://www.huffingtonpost.jp/2018/02/12/ruri-miura_a_23359021/

この問題の中で受けた批判に対して本人が反論として書いたブログの「韓国の情報源に基づく英国の記事」の引用元がイギリスの大衆向けゴシップ紙「デイリー・メイル」であったことから「事実関係が薄い」「根拠がない」ことが大きな批判を浴びた。

(三浦氏のブログ記事はこちらhttp://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2018/02/12/205902

https://twitter.com/sayakafc/status/963060379734724610

https://twitter.com/aritayoshifu/status/963052898597748738

 

ここで考えたいのは発言の虚偽性ではなく、三浦氏の発言が差別を扇動する「目的又は効果」をどれほど持っていたか、である。以前の記事でも言及したが、大阪地震の際に三浦氏の「スリーパーセル」発言を基にした差別扇動が行われている。

【参照】大阪地震で起きたヘイトデマに注意――ヘイトクライム、ジェノサイドを防ぐためにhttps://www.huffingtonpost.jp/rysyrys/osaka-20180622_a_23462927/

 

やや長くなった。最後にヘイトスピーチを記録・通報する方法について書いておきたい。

簡単である。

 

①記録する

②通報する

 

この2つだけ。

ARICのこちらの通報フォームで簡単に送信できる。

https://antiracism-info.com/contact/

 

①について具体的に書けば、

 

・記録は写真か動画が一番よい。街宣であれば動画や録音。ビラや看板であれば写真。ネット特にSNSならばスクリーンショットでもよい。

残念ながら差別する側の人間は、動画や音声がなければ、あとで問題になったときに「そんなこと言ってない」と平気でいう。そのためとにかく動画・音声データが極めて重要になる。

(もしも客観的証拠がない場合は記憶を頼りにメモを書く。いつ、どこで、だれか、なにをしたかを書く。特に差別発言は、具体的に何を言ったのか、が重要なので、できるだけ正確に客観的に発言を「」でくくって書いておく。)

 

選挙期間中にデマだけでなく、差別を扇動する政治家がいれば是非ともARICに通報して欲しい。

差別の通報には大きな意味がある。なぜなら差別が起きても、誰かが問題にしなければ「なかったこと」になるからで、そのためには目撃者の通報が必要だからだ。政治家が差別をしたという証拠があれば、選挙期間中あるいは選挙後でも問題にすることはできる。

 

繰り返しになるが9月30日の投開票までに、政治家による酷いヘイトスピーチがでないとの保証はない。その際、差別発言を批判できるかどうかが日本の民主主義を左右すると言っても過言ではないだろう。

 

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