2018年2月12日、三浦瑠麗 「〔前略〕 スリーパー・セルの危険 北朝鮮情勢をめぐっては思惑含みの情報が数多く
2018年2月12日、三浦瑠麗 「〔前略〕 スリーパー・セルの危険 北朝鮮情勢をめぐっては思惑含みの情報が数多く
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antiracism-info
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発言内容 | 〔前略〕
スリーパー・セルの危険
北朝鮮情勢をめぐっては思惑含みの情報が数多く飛び交います。米軍の先制攻撃が近いという議論は、2017年春頃に盛り上がり、その後は2018年年頭ということも随分と囁かれました。私は、北朝鮮による暴発の可能性は読み切れないが、米国による先制攻撃の可能性は低いと申し上げてきました。米国は、絶対に武力行使の可能性を否定はしませんから、先制攻撃も100%ないとは言いきれませんが、その可能性は限りなく小さいと思っています。
最大の理由は、単純に犠牲があまりに大きいからです。米軍の被害、北朝鮮による報復が予想される韓国や日本における米国民間人の被害、そして、同盟国である日韓の犠牲です。犠牲の規模については様々な数字が飛び交っていますが、戦争が通常戦に留まり、主にソウル近辺で戦われたとしても、1日2万人程度の犠牲が見込まれるとされています。そして、核戦争となった場合には開戦初日に100万人単位の犠牲を想定し得るというのです。
一部の安全保障専門家には、米軍の兵器体系を開戦と同時に集中的に投下することで、こちら側の犠牲は極小化し得るという発想もあるようです。北朝鮮の、目も耳も手足も瞬間的に破壊することによって反撃のリスクを抑えられると。私は、それでも北朝鮮が隠し持つとされる50-60発の核弾頭と200発を超える短/中距離ミサイルの全てを破壊することは、常識的に言って不可能と思っていますので、この種の見方には立ちません。
また、安保専門家の間で危機感をもって語られるのがスリーパー・セルの存在です。スリーパー・セルとは、文字通り有事が起きるまでは眠っていて、相手国の民間社会に浸透して暮らしている敵性エージェントのことです。これらが、例えば、金正恩氏が殺されたとの報に接したならば、あらゆる外部との連絡を絶ってテロ行動を開始せよと指令されているということです。ターゲット候補となるのは、空港・駅・橋・港湾施設などの交通インフラ、発電所や変電所などの電力インフラ、通信施設やデータセンターなどの通信インフラでしょう。あるいは球場やコンサート場、東京銀座や大阪梅田や福岡天神などの日本を代表する繁華街となるでしょう。
実は、2月11日(日)放送のワイドナショーにおいて、スリーパー・セルの存在について発言したところ、ネット上で大きな反応を頂きました。具体的には、
「実際に戦争がはじまったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されてもスリーパー・セルと言われて、指導者が殺されたのがわかったらもう一切外部との連絡を絶って都市で動き始める(中略)テロリスト分子がいるわけです。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも、今結構大阪ヤバいと言われていて・・・。(中略)というのはいざという時に最後のバックアッププランですよ。でそうしたら、首都攻撃するよりは、正直、他の大都市が狙われる可能性もある」との発言をしました。
正直、このレベルの発言が難しいとなれば、この国でまともな安保論議をすることは不可能です。私自身、政治家や官僚との勉強会や、非公表と前提とする有識者との会合から得ている情報もあるので、すべての情報源を明らかにすることはできませんが、本件は、専門家の間では一般的な認識であり、初めてメディアで語られたことですらありません。
国民にとって重要なことですので、どのような状況か、公開情報となっているものを紹介していきましょう。
まず、下記(韓国の情報源に基づく英国の記事)では、北朝鮮から、ラジオを使って暗号が流されたことを報道しています。記事を通じて、スリーパー・セルの存在や、連絡手段のあり方が明らかになっている他、スリーパー・セルは、「各国にいる」とも表現されています。日本は、韓国に次いで北朝鮮にとっての重要な工作先ですから、日本にも存在すると想定することは当然でしょう。
また、日本でも読売新聞が、大阪府の朝鮮総連傘下の商工会の人間が1980年の拉致事件に関わっていたということを過去に報道していますから、その当時大阪にテロ組織があったことはわかります。
当然、この状況は日本の治安組織もつかんでおり、平成元年には、当時の警察白書において、「我が国に対するスパイ活動は、我が国の置かれた国際的、地理的環境から、共産圏諸国であるソ連、北朝鮮等によるものが多く、また、我が国を場とした第三国に対するスパイ活動も、ますます巧妙、活発に展開されている。」と断言しています。
直近の平成二十九年版の警察白書では、北朝鮮をめぐる拉致問題をはじめとするテロ活動について、「諸情報を分析すると、拉致の主要な目的は、北朝鮮工作員が日本人のごとく 振る舞うことができるようにするための教育を行わせることや、北朝鮮工作員が日本に潜入し て、拉致した者になりすまして活動できるようにすることなどであるとみられる。」としています。
秘密工作という分野は、公開情報を基に行われる研究者の間では扱いにくいテーマです。スリーパー・セルについて扱ったものではありませんが、北朝鮮に対する制裁の専門家である古川勝久著の『北朝鮮核の資金源』新潮社においては、日本に贅沢品や軍需品を密輸する会社があることを詳細に綴っていらっしゃいます。ただ、これだけでも北朝鮮の工作が日本国内において日常的に行われていることはわかるでしょう。
安全保障を議論するということ
安全保障は確率論の世界です。国の安全には100%ということはあり得ないからです。専門家は、リスクの可能性を1%でも減らし、危険に対する対応力を1%でも増やすために日々努力しているのです。そのような安全保障の営みを可能とさせるためには、専門家に対してあらゆる事態について想定し、テーブルに乗せる裁量を与えなければなりません。ミサイル防衛についても、原発警護についても、100%安全ということはありません。国民には、どうして安全と言えるのかと問い続ける権利も義務もあるのです。
同様に、スリーパー・セルが日本に存在することとも、向き合わないといけないのです。テロリストがいると思えば、当然テロ捜査をしなければいけないわけで、その過程を通じて、テロリストがいない社会よりも人権保護に関する懸念が生じうることは確かでしょう。だからこそ、安全だけでなく人権保護の観点をバランスさせながら重視していく必要があります。安全の確保は人権との緊張関係を一切孕まないと言ってしまえば、それは嘘をつくことになりますし、いざ有事には反動として極端な人権侵害が行われるはずです。人権保護と緊張関係があるからと言って、国家の安全にとって重要なリスクを国民に見える形で議論することを躊躇すべきとは思いません。
考えてみれば、これもまた、安全保障を法解釈でしか語れなかった結果として、この国に根付いてしまった悪癖かもしれません。安全保障は、事実と、リスクと、確率と向き合う営みです。それは、本来は、誤魔化しの言葉遊びとは関係のないもの。「専守防衛」の内実や、「集団的自衛権」と「個別的自衛権」の差分を云々していても、日本は1ミリも安全にはなりません。今の日本にとって不可欠なのは、安全保障の世界から誤魔化しと建前の議論を放逐することではないでしょうか。 |
発言者 | 三浦瑠麗 |
所属 | 東京大学政策ビジョン研究センター講師 |
所属団体 | |
発言日時 | 2018/2/12 |
発言場所 | 山猫日記 |
情報源 | 山猫日記 朝鮮半島をめぐるグレートゲーム |
掲載日時 | 2018/2/12 |
掲載元URL | http://lullymiura.hatenadiary.jp/entry/2018/02/12/205902 |
事後経過 | |
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補足・解説 | |